危機一髪の失敗談     TOP PAGE に戻る

思えば30年以上と長い間保全屋稼業をやってきた。
この間人身事故を起こさなかったのはまことに幸運だった。
しかし危機一髪だった事例は何度かあった。
思い出すまま書いてみた。




手抜きアンカーボルト

床上3m程に架設してあった200mm径程の水平配管を撤去していた。
重いので天井吊りではなくところどころ床から柱でサポートしてあった。
両端の接続を外してからフォークリフトで配管を吊り上げ最後に柱を
倒す予定だった。
ところが両端のフランジを外したとたん、いきなり柱もろとも倒壊した。
何と柱の基礎部にアンカーボルトが打ってなかったのだ。しかも基礎部は
モルタルでカッコ良く仕上げてあたかもアンカーボルトを隠すかのように
カムフラージュしてあったのだ。
まったくとんでもないインチキで手抜きの施工がしてあったものだ。
もし倒壊が数分早かったら何人かの作業者が周囲にいて大事故になっていた。
こんな場合でも事故が起こってからアンカーがあると思っていたでは済まない
から過信は本当に恐い。

電力コンデンサのパンク

受変電設備の点検中に力率改善高圧コンデンサ6600V250KVA×2の
電流のアンバランスに気づいた。1相だけ多いのだ。
供給電圧は各相バランスしているからコンデンサ内部で異常があると推理した。

そこは以前不燃性油PCB使用タイプのコンデンサを使用していたのだが
PCBが使用禁止になったので鉱物油タイプに交換した場所だ。
設置後半年足らずで新品同様だ。

高圧コンデンサのパンクは極めて危険だ。もしパンクしたら内部の圧力は
急激に上昇し爆発を起こす。遮断器では時間的に保護が間に合わない。
適合した限流ヒューズでなんとか保護できる程度だ。実際知っている工場で
高圧コンデンサがパンクし特高の変圧器まで破損した事例がある。
PCB使用の時代はめったに事故など無かったが鉱物油使用になってから
信頼性が落ち安心できなくなった。

直ちに高圧回路から切り離しメーカと原因調査した。その結果内部のコンデンサ
の1ブロックがパンクし直列接続されたもうひとつのコンデンサブロックだけで
機能しており完全なパンクの寸前だった。まったく冷や汗ものだった。

私見だが高圧コンデンサはなるべく無くし同容量の低圧コンデンサを設置した
ほうが良い。トランス容量もムダ無く使えるしパンク事故が起っても軽度で
済む。問題は価格だが高圧コンデンサだと真空開閉器や限流ヒューズの設置
がコンデンサ本体の価格より大幅にかかるのでかえって割高になる。
低圧コンデンサだと大容量になるほど割安だし保護のヒューズも安く開閉も
一般のモータ用マグネットスイッチで済む。
私は配電キュービクルには低圧側にトランス容量の30%程度の低圧コンデンサを
最初から設置し開閉用マグネットスイッチと力率コントローラも取り付けている。

オイルスイッチ

長く電気にかかわる仕事をしていると事故が起こるのと無事なのは本当に
紙一重の差だったこともある。
6000ボルトの開閉器はオイルスイッチと呼ばれ油タンクの中に開閉部
があった。
外には紐の付いたレバーと開閉を示す矢印が付いていた。
でも接触部は見えないので開閉状態は信用するしかない。
オイルスイッチは切ってあるというので検電したら活線なのだ。
操作者の勘違いでレバーの位置が開の位置にあったので実際は閉なのに
開と思い込んだいたのだ。
もし検電していなかったら大事故になっていた。

その後オイルスイッチは火災事故が多発し市場から姿を消したが目視で
確実に開閉状態が確認できしかも対環境性のすぐれた高圧開閉器はまだ
無いようだ。

検電しても

検電しても安心はできない。
6000ボルトのケーブルを切り離すのにスイッチを切り検電したら
無電圧なので作業にかかった。
ところが激しいショックを受けた。
静電容量によりケーブルに電圧が残留していたのだ。
高圧用の検電器は内部でコンデンサカップリングしているので交流の
電圧しか検知しない。
それ以来高圧の検電はアースと被測物の間で数回繰り返し残留電荷で
検電器が鳴るピッ音が消えてから作業にかかることにした。

あわや転倒の下敷きに

停電工事中のバックアップにエンジン発電機を用意することは多い。
ユニック付きのトラックで運び込むのが普通だが、荷降ろしは
細心の注意がいる。
発電機を吊り上げトラックの車体横へ振り出したところ予想外に重く
あれあれと言う間にトラックの片側は浮き上がり発電機は地面にドスン
トラックは横倒し、荷台で操作していた作業者は反対方向に危うく飛び降りた。
幸い荷降ろし位置に人がいなかったので人身事故にはならなかった。
クレーンでの荷揚げ荷降ろしは最も危険な作業であり慎重さが必要だ。

プッツン

ワイヤーロープも使い方を誤ると意外と弱いものだ。
ホイストで設備をトラックの荷台から吊り上げトラックを待避させ
設備を降ろそうとホイストの下降ボタンをチョンチョンと押したら
突然ホイストのフックにかけてあったワイヤが切れ設備はドスン。
人身事故にならなかったのは幸いだが設備は壊れた。
ワイヤは衝撃荷重がかかることを考えて選定しないと簡単に切断する。
特に昇降スピードの早いホイストで使用するときは注意が必要だ。


危うく大損害

150kw3300Vの高圧モータを使っていた。始動にはリアクトルスター
トつまり始動時の数秒間だけ直列にリアクトルを入れ始動電流を押さえる。
次にマグネットスイッチでリアクトルを短絡させ全電圧で運転をする。

もし始動タイマーが故障してリアクトル短絡マグネットが作動しないとリアク
トルに連続して電流が流れ加熱しやがて焼損する。リアクトルはせいぜい数分
間の熱耐量しかないのだ。
このためタイマーをもうひとつ使用して監視用としもし始動タイマーが設定時間
で作動しないと元の電源つまりメインマグネットスイッチを開放するようになって
いた。

さてある時始動後すぐ電源が落ちる現象が出て調べるとこの監視用タイマーが
働いていた。タイマーが不動作になることなどめったに無いことだろう。
しかしもしこの保護回路が無かったら確実にリアクトルは焼損していた。
数千円のタイマーの不良が原因で数10万円のリアクトルをパーにするところだった。
それになにより設備の長期ダウンによる損害が甚大なものになっていた。

まったく肝を冷やす出来事だった。やはりこういったバックアップ回路は大切
だと再認識した。


ドスンと落下事故

事例1。ベアリングの交換をするため重さ300キロ程あるギヤーボックスを
取り外すことになった。4個所にあらかじめあったネジ穴にアイボルトをねじ込み
ホイストで吊り上げた。50センチほど吊り上ったところで横に動かしだした
とたんアイボルト2本が抜けドスンと設備のベッド上に落ちた。
一瞬なぜ落下したのか理解できなかった。調べるとアイボルトのネジ径が
ギヤボックスに付けられたネジ穴より少し小さく完全にネジがかかっていなかった。
本来ならねじ込むときに気が付きそうだが穴に切り屑が詰っていて一見
固く閉めた感じがしていたのだ。もう少し後で落ちたら大事故になっていた。
それ以来吊り上げ作業のアイボルトはもう一度確認する習慣が付いた。

事例2:トラックに縦長の設備を積み運んでいた。降ろすときフォークリフトの
爪が入り易いようにと10センチ角の角材木を底にかましていた。
突然道路のくぼみで設備が踊った瞬間角材がはね抜け荷台の上で設備は倒れた。
ロープは上部にかけてあったが積載物の下部だけ荷台の上を滑ったのだ。
不安定な背高の設備は特に基礎をしっかりしないと移動は危険だ。
荷台に設備を直に乗せ下部にも上部にもしっかりロープをかけることが必要だ。

事例3:トラックの荷台から設備を降ろしていた。フォークリフトの爪が届かないので
反対側からフォークリフトで押した。設備は荷台上を滑り片側に寄ったとたん
重みで荷台が沈み傾斜した。アレアレとおもう間に傾いた積載設備はバランスを失い
地上にドスン。幸い下にだれもいなかったので設備の損壊だけで済んだが運悪ければ
死傷事故間違い無しの事故だった。
このようなフォークリフトでの荷降ろしは少しずつフォークリフト側に引き寄せ
荷台が沈まないよう支えながら降ろすことだ。トラックの積載能力いっぱいの
場合はしばしば車軸の板バネが反対方向に曲がる程荷台が傾くことがある。
それと万一の荷物の落下に備え直下に人を寄せないことだ。

事例4:使わなくなったコンクリート電柱をクレーンで引き抜いていた。
吊り上げた後、地面に置こうと根元を地に付けクレーンのワイヤーをゆるめたらフック
から電柱を縛っていたワイヤーが外れた。アレアレと思う間に電柱は傾きクレーンの
方向に倒れだした。そのまま勢いを付けクレーンの誰もいない運転席を直撃。
運転席の屋根が大きくへこんだ。業者もいいかげんでクレーンのフックに外れ止めが
あったが針金で縛って殺してあった。それと電柱を縛ったワイヤーが短か過ぎた。
怪我人が出なくて何よりだったがこんな業者には仕事は任せられない。でも屋根が
クッションになったのでコンクリート電柱は折れもしなかった。


業者の事故

事例1:野外で地上高 2.5m程の配管の撤去をしていた配管業者、なかなか緩まない
のに腹を立て配管に喰らい付いているパイプレンチを脚で思いっきり蹴った。
そのとたん外れたパイプレンチと共にその男も地上に落下。したたか全身を打って
動けない。救急車を呼んでくれーとかすかに言うだけ。
おかげで刑事までやってきて現場調査に立ち会うはめになった。
その男1ヶ月ほどでまた仕事に来ていたが短気は損気だと痛く身にしみたことだろう。

事例2:壁にはしごを掛けて登りだした業者の男、はしごの脚が床面で滑り床にドスン。
怪我はなかったが危ないことだ。実際はしごの滑りは恐い。二人コンビで下で
はしごを保持してもらい上部を構造物に、しばってから作業にかからないと危険だ。
最も昨今ははしごより高所作業車を使うことが多くはなったが動力を使うだけに
別の危険があり操作ミスで頭を天井に挟み死亡した事例も他社であった。

事例3:配電盤の裏で結線していた見習いの若者、ペンチで端子をショートさせてボカン。
ヒューズが飛んでたいしたことはなかったものの当分目は見えず鼻から煙を吹いていた。
隣の回路が活線の場合はよほど慎重でないとこんなことになる。

事例4:ローリングタワーつまり作業用移動台を場所変えしていた業者の男、
キャスターを溝に落としタワーはひっくり返った。幸い上には誰もいなかったが
もし人を乗せていたら3m下の地上にたたき付けられ大事故になっていた。
くわばらくわばら。

約30年間の間、業者も含め危険な作業に従事してきたわけだ。大きな事故に
自他ともに合わなかったのはただ幸運だったとしか言いようが無い。
やれ安全教育とやかましく言っている事業所でもけっこう大きな事故はある。
けっきょくは自分の身は自分で守るしかないのだ。以外と零細な業者ほど怪我は
死活問題だと理屈抜きに身体で認識しているものだ。


新人は怖い

部下に仕事を指示するのは神経を使うものだ。
特に不慣れな者に危険作業をまかすときは気を使う。

例:新入課員に建物に固定されたはしごの再塗装を指示した。
安全ベルトの使い方を指示しペンキ缶やワイヤブラシを渡した。
指示通り上の方から塗装してきた彼、突然脚をステップにかけぞこね
身体は落下、安全ベルトだけで、はしごにぶらさがった。
ペンキ缶は落っこちてくるし、もし安全ベルトをしていなかったら確実に
10m下のコンクリートにたたきつけられ死亡しても当然の状況だった。
もし大事故になっていたら両親になんてお詫びしたものやらと今から思
っても冷や汗モノの出来事だ。

例:天井取付の水銀灯交換をしていた新入課員。
ランプをゆるめようとしたが固く無理に回したらランプが割れた。
その彼なにを思ったのか割れた球を取ろうと手を出した。
手が口金から出た金属部に触れ感電した。
はしごの上での感電は恐い。落っこちそうになり青い顔で下に降りたときは
口もきけなかった。
考えてみれば不点灯のランプでも内部は活線なんだから感電するのはあたり
まえなんだけど。



眼が大切か頭が大切か

ヘルメットは頭部を保護してくれる大切な保安用具である。
何気なく立ち上がったとき上部にある物体で首がへこむほど頭をぶつける
ことはよくある。こんな時はヘルメットのありがたさがわかる。

例:地下8メートルの地下ピットで作業をしていた。突然上から頭上に
激しいショックを受けた。
ぶつかった物体はヘルメットに命中した後、足元に落ちた。
アルミのスクラップの塊だった。重さ5キロはあるだろう。
途中の横梁にひっかかっていたのが振動で落下したらしい。
ヘルメットの上に落ちて助かった。もし肩の上に命中していたら骨折して
いただろう。
もちろんもしヘルメットをかぶっていなかったら今ごろ骨になって墓の中
まちがいなしだ。

例:設備から設備へ早足で抜けようとしたら突然激しいショックと共に
ヘルメットが後方にぶっ飛んだ。
ちょうど目のわずか上の位置に横方向に柱があった。
ちょうど死角になるのだろう。何日か後今度はヘルメットをかぶっていない
作業者が同様に頭をぶつけ何針か縫う怪我をした。
その後そこは通り抜け禁止になったがヘルメットの大切さを再認識した。

ところでアメリカでは石頭が多いのか、よほどの危険作業でも無い限り無帽で
ある。そのくせ安全眼鏡は異常なまでに厳しく指導する。
眼球のスペアーは売っていないなどと安全PRのポスターに書いてあった。
でも命のスペアーはなおさら無いと思うんだが。
以前、安全上に大切なのは眼鏡かヘルメットか米人と議論になったが彼らの
言い分は眼は頭より大切らしい。習慣と文化の違いか。


あわや爆発寸前

アルミ溶解炉のバーナーを点検したときのこと。電源を切りバーナーの扉を
開けた。当然電源を切ればガス弁は閉じられて燃焼は止まるはずだ。
ところが何と弱いながらバーナーが燃えたままだ。これは恐怖だった。
原因はメインバーナーの電磁弁が完全に閉じずガスがリークしていたのだ。
燃焼を続けていたから良かったものの生ガスが出ぱなっしだったら大爆発の
怖れもあった。
ガスといってもタール状の不純物が長年の間に溜り電磁弁の動きを悪くする。
特に常時開放状態で使っている電磁弁は通電を切っても開きぱなしになる
こともある。
電磁弁を2個直列に設置するのはこのような事故を防ぐのに大切なのだ。
また着火前の掃気は万一の可燃性ガスの滞留を除く極めて大切な動作で
炉の温度が下がるほど、これでもかと思うぐらいやるのが安全上必要だ。



あわや脳天直撃

突然工場内の休憩場所のいすの上に天井から配管吊り下げ用、長ボルト
(直径10ミリ長さ1m)が垂直に落下していすにぽっかり穴が開いた。
いつもよく休憩時間に作業者が座っている場所だ。もし頭上に落ちたら確実に
脳みそ直撃の矢となっていた。恐ろしや。

この吊りボルト以前あった配管の吊りボルトで配管は撤去したものの吊りボルトは
そのまま残っていたのが振動でネジが緩んだらしく落下したもの。
要らないものは天井に残すなの教訓であった。

早速全ての残存吊りボルトを一掃したことは言うまでもない。



ロボットと格闘

ロボットに挟まれる事故は対策が取ってないと一般の搬送装置による事故より
可能性が高いと思う。
その理由は一般に装置外に動作範囲がはみ出している上、動作領域が固定して
おらず予測困難なことによる。

新しく設置したロボットがあった。まだ安全柵は設置してなかった。
しかし既にテストを終わり生産を開始していた。
近くで修理作業をしていて道具を取りに行くのにロボットの裏を通りぬけた。
その方が近かったからだ。それにそんなにロボットのスピードも速くなく
通り抜けられると思った。
甘かった。背後から追っかけてきたロボットのアームはオイラが抜けきる
までに背中を近くのパイプに押し付けた。一瞬時間が止まった。
なにくそ負けるかという気持ち。でもあまりにも強いその押し付け力。
パイプが継手でねじれた。オイラの身体は床に弾き飛ばされた。
背中をすりむいただけでアバラ骨は無事だった。
もしパイプでなくもっと強固に固定された壁だったら確実に骨折していただ
ろう。

ロボットの設置は保護柵と同時に進めること。これが教訓だった。



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