分水嶺の旅2009年6月17-18日

洋の東西を問わず古来から土地は争いの元であった。
その境界を決めるのは、川だったり山だったりした。
山では多くの場合、分水嶺を境界としている。
天が決めた境界、それは公正な基準となったことだろう。
今回歩いたのは伊勢と伊賀を分ける山域である。
右の足元に降った雨は長い旅路を経て伊勢湾に注ぐ。
左の足元に降った雨はいつかは大阪湾に注ぐ。
そんなことに想いをはせながらひたすら歩いてみた。
加太から大山田に抜ける峠(こうもり峠)を出発し分水嶺に沿って北上する。
終点は古代から大和街道として利用されてきた加太越である。
このルートは亀山市と伊賀市の境界でもある。
延べ12kmだから順調に歩けば一日コースだけど
道に迷ったり難路だったらたちまち日が暮れて遭難騒ぎに
なりかねない。
今回はテントを担いでの一泊とした。
いつもと同じく自分独りだけの単独行である。
準備するものは、いろいろあるが、軽量化を心がけた。
水場も期待できないので3リッター持参した。
重いものの代表は水とテント(2.5kg)である。
コンパスは必需品である。
しかしこれだけでは今回のようなルートでは不安なので
最新ツールを用意した。
GPSである。
5万円近い計器なので友人に借りた。
春にコースの事前調査で見つけた花、クリンソウ。
鈴鹿ではめったに見れないそうだ。
今回は花期を外れたので、無理だった。
こうもり峠まで友人に送ってもらいスタート。
いきなりヤブコギで難渋したけどなんとか尾根に出られた。
足元には潅木の花が一面に落ちていた。
やせ尾根をたどる。とにかく見晴らしがないのに
枝尾根が多い。どちらが正規のルートかまったくわからない。
GPSで位置を決め地図とコンパスで見当をつけて進んだが
何度か間違え引き返すので時間ばかりかかった。
ようやく整備された遊歩道に出た。
大平池の周辺はよく整備されている。
これは伊賀市の手によるものだろう。
学童のレクレーションにも使われる遊歩道を離れ
分水嶺をトレースする。
なぜか大阪市の道標がある。
大阪市の飛地なのだろうか。
そうなら亀山市と大阪市が接する場所である。
右に降った雨は伊勢湾へ
左に降った雨は大阪湾へ
遠くに鈴鹿・四日市の市街地が見えた。
携帯もよくつながった。
いかに水源の森が奥深いか身体で感じた。
もう伊賀の山、霊山の東側である。
ここでルートを間違え伊賀側の林道に下りてしまった。
失敗、失敗。林道を戻る。
途中には猫の好きなマタタビが白くその葉を
染めていた。
ここが分水嶺、市の境界の峠である。
ふたたび、道なき道をかき分ける。
やせ尾根が続く。
せっかくなのでルート東にある、前から気になっていた
3角点峰に登る。
ここへのルートは驚くほど開けてなだらかだ。
大きな鹿が、変なやつが来たと逃げていった。
いつも鹿クンたちが整備しているのかな。
先見山650mと読める。
こんな山が亀山市にあるなんて誰が知っているだろう。
頂上付近からは加太の集落が一望だった。
中央は送電線鉄塔が目立つ仏平。
この広大な山域は、自然のつくる浄水器である。
太平洋、伊勢湾からの湿った空気が山にぶつかり雨を作る。
豊かな森林が水を徐々に下流に流し出す。
まさに、この地の恵み、資源ともいえる。
夕刻が迫ったのでテント場を探すがなかなか平地がない。
携帯の使える場所であることも必要だ。
何とかやせ尾根にねこの額ほどの場所を見つけ
テントを張った。軽い夕食を終える頃、周りは暗くなった。
遠くから名阪国道の車の音が響いてくる。
無事にテントに入ったことを仲間にメールする。

テントでの泊まりは好きな遊びだから楽しいが
寮を追い出されたり災害での避難だったら辛いだろうなあ。
風呂もないし快適とは程遠いものだ。
朝は4時半過ぎには鳥たちが鳴きだした。
軽く朝食を済ませテントを片付ける。
昨日に比べガスがかかって東風も強い。
雨が近そうだ。早く歩を進めようと朝5時にスタート。
かれた古木にカメラを置いて写真を撮った。
急いだので尾根筋を間違え引き返す。
名阪のトンネル近くは大規模に林道の工事が行われていた。
倒木が分水嶺をふさぎルートが読めない。
開けた森は笹が茂り進路を阻む。
尾根を下ると、昔、人の住んでいた気配を感じた。
また間違えた。引き返すことにする。
林道工事にぶつかり、進むのも困難である。
しかたなく迂回することにし工事中の林道を下った。
まえに来た覚えのある場所だ。
頑丈なゲートがある。
名阪国道の加太トンネル入り口の上である。
この位置から見ることはそうないだろう。
ここが本当の分水嶺。
民家の敷地のようだ。
でも行政区はもっと下で分けている。
別荘地帯のど真ん中に市の境界が通っている。
テニスコートもある。
あまりに俗化した一帯、天候も崩れそうで
もうこれ以上、進む気がしなくなった。
車道をあるいて車を置いた場所に戻ることにした。
山を崩して採石する業者のプラントが見える。
山が哀れだ。
無事、午前9時に旅を終えた。
完全トレースとはならなかったけど、満足である。
さて今度はどこに行こうか。

昨年の分水嶺の旅

友人がGPSでの軌跡を地図上に描いてくれた。
間違った場所が、見事に再現されていた。

最後までごらんいただき感謝いたします。