まぼろしの大滝
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南鈴鹿の仙ヶ岳には落差100mに及ぶ巨大な滝があるという。
古老の語るところ普段は見えないが時によりその山腹に巨大な姿をあらわし
数里先からでも見えるそうだ。
10年近く前になるがこの話に興味を持ち毎日双眼鏡で山腹を観察していた。
ある日夜間に大雨が降り、くっきりと晴れ渡った朝、山腹に純白の巨大な帯が
確認できた。肉眼でもはっきり見えるが双眼鏡で見ると巨大な水塊がゆっくりと
落下してゆく様が手に取るように見られ時を忘れて眺め続けた。
その日は昼頃までその姿を確認できた。
何日か後、滝の見えた現場を探そうと山に入った。
坂本という集落から林道を歩き矢原川をさかのぼる。
この辺りは野登山と仙ヶ岳の間になり江戸時代には修験道や野登寺の参詣の
人々で賑わったと伝えられる。今でもひっそりとした杉林のなかにかっての住居跡
と思われる石垣が残っている。
林道の終点辺りから川原に降り後は矢原川の本流をさかのぼる。
踏み跡は左に一気に山腹を登って行くがそちらに行かず谷をつめる。
30mほどの滝をよじ登り更に行くと両岸が迫り巨大な滝の下部に出た。
上部はかすんでいるが100m近くはあるだろう。
これこそまぼろしの大滝だった。途中で逆くの字に曲がった滑滝である。
左の絶壁は猿でも登れないような断崖なので右の崖を樹木につかまりながら
よじ登った。苦闘の末やっと滝の上部に出た。そこは平坦な沢で先の踏み跡から
容易に入れる場所だった。ここには定穴と呼ばれる行者がこもっていたらしい洞穴
への踏み跡もある。
この谷(滝谷)は更に上流に不動滝と称する2段の滝があり修験道に利用されていたそうだ。
このまぼろしの大滝の直下に入るには踏み跡を外れ沢を直登しなくてはならない。
途中には厳しい滝があり容易ではない。
また全景を見るには危険な断崖に阻まれ不可能に近い。
それゆえ一部の沢登り愛好者のみに知られたまぼろしの大滝となっているのだ。
やはりこの滝は人知れず静かに樹林に埋もれている方が似合う。
そして時にはその巨大な姿をはるか遠くに見せて欲しいものだ。
矢原川林道より遠望した100m大滝。 全景を見るのは鳥にしかできない。
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滝頭がかすむ100m大滝。 この下部に更に30mほど続くが 絶壁にさえぎられて全景を 撮ることは困難である。
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