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2月も下旬になれば御所平の山なみの残雪も残り少なくなってきます。 |
猫柳(ねこやなぎ) ヤナギ科 川柳(かわやなぎ)河楊(かわやぎ)
山の際(ま)に雪は降りつつ しかすがに この河楊は 萌えにけるかも (万葉集)
まさに今の季節の歌と言えましょう。
山の冬色(雪)に対して、猫柳の早春を優しく表現し、「うん、なるほど」と相槌を打ってしますほど、詠み人の語りかけと心遣いがうれしいではありませんか。
川辺に自生し、以前は何処にでも見られ、茶花としても釜開きに使われました。
名の由来は、花穂を猫の尾にたとえたとされます。
白銀色の、そして柔らかななんとも愛らしい花姿があなたにお会いするのを待っています。
もう春がすぐそこまでやって来ています。
早春の自然の素晴らしさをご満喫ください。
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私の想い(50代男性)
数年前、北米オハイオの田舎に仕事で滞在していた。
厳しい寒さが緩む頃、職場の事務の女性がまだ冬芽のネコヤナギを机に飾ってくれた。
やがて柔らかな、そして懐かしい花穂を開いた。「これは何て呼んでいるの?」と聞くと
プシーウィロー(Pussy willow)だという。Pussyとは猫の愛称でまさにネコヤナギである。
日本でも同じ呼び方をしている。春の水辺のシンボルだと言うと
こちらでは特に水辺に生えるのでなく山野のありふれた樹木だと答え
ネコヤナギという日本語を覚えてくれた。
やがて大きくふくらんだ花穂は春の到来と共に花期を終え机の上に散り始めた。
それは駐在を終え日本へ帰るときでもあった。
金北山(62歳男性)
アメリカ滞在での猫柳の話、どうも有難うございます。
小生、20年前にドイツのデュセルドルフに滞在しましたが、
早春にはライン川の岸辺に、やはり柳が咲いていました。
また、近くの森の中でも発見して大変嬉しく思いました。
同じく、秘書嬢に聞きましたら、"weidenkaetzchen"(willow
+ little cat)との答えでした。
日、米、独とこの見事な一致を物知りのお方に説明頂けたら幸いです。
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満作(まんさく) マンサク科落葉小高木
名前の由来は「豊年だ。満作だ」と枝いっぱいに黄色の花が咲くためという説と春一番「まず咲く」がなまったという説があります。
花の少ない時期に葉に先立って黄色の花を咲かせるため、庭に植えられることが多く園芸種と思い込んでいる方がほとんどでしょうが、実は自然種です。
今ごろちょうど満開の季節を迎え、山の春の訪れを黄色の花で優しく知らせてくれます。
今回撮影した場所には、20株程度の群落があり、谷を彩るさまはほんとうに素晴らしいの一言につきます。
ふきのとうなどの山菜取りと、散策をかねた野山のハイキングなどいかがでしょうか。
花弁は4個、長さ1〜1.5cmの細長い線形、樹高は5m程度。
葉は秋に美しく黄葉します。
三 椏・三 叉(みつまた) ジンチョウゲ科 落葉低木
三叉の花雪片の飛べる中
という有名な俳句はご存じですか。
季節は今、ややもすると残雪が見られる山中に、ひときわ鮮やかな黄色の花を一面に咲かせます。
原産地は中国で、室町時代に渡来したとされますが、万葉集の和歌に詠まれており、それじゃあいったい?と、おおいに疑問がわくところです。
きっと、古今東西花好きの御仁が遠路持ち込まれたものと考えれば、いいのではないでしょうか。
春さればまず三枝の幸くあらば 云々 柿本人麻呂
この歌のとおり、春になると先ず咲くのが特徴で、以前の本欄でご紹介しました「満作」と開花時期が同じです。
満作は日本産の種で、春に先ず咲く花の意味がなまったもの(マズサクがマンサク)とされますが、本種はその姿から(枝が3つに分かれる)三叉との名があります。
葉の展開する前に開花し、枝先の頭状花序に小さな花が30〜50個付き、鮮黄色のそれはそれは可愛く、周囲一帯が芳香に包まれます。
樹皮の靭皮じんぴ繊維が強いことから紙の原料に利用され、特に明治以降は紙幣の原料にもされています。
そこで、坂本地区ではこの三叉を使って「紙スキ」を復活させ、皆さんも体験が出来るよう取り組まれており、ちょうど3月末には、「みつまた祭り」が棚田の周辺から模範林道の奥の三叉群生地で開催されます。
一見の価値がありますので、ぜひ挙ってお楽しみください。
なお、ここでのお願いは、「花は野に置け」と言う言葉もあります。群生地の保護にご協力ください。
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みつまた秘話
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木五倍子(きぶし) きぶし科 落葉小高木
みつまたの群生地への道中、上を見ながら歩いていましたら、こんな可愛い花を見つけました。「きぶし」です。
山の春は総じて淡黄色の花が先ず目に飛び込みます。今、野登山では「マンサク」が満開、次がこの花、そしてアセビと続きます。
本種はキブシ一属からなる科で、日本固有の樹木だそうです。雑木林や丘陵地のやや湿った、半日陰を好むようですが、結構河川、道路沿いで見られます。
雌雄別株で、長さ10cm程度の総状花序が垂れ下がり、元の方から(上)咲き始めます。
そうです「藤」のように垂れることから「木藤」とも呼ぶ方がありますが、これは間違いで花の後葡萄状に結実する果実を五倍子(ふし)の代用として、染料(お歯黒)に使用したことから、木の五倍子、木五倍子(きぶし)とされたものです。
仄かなる闇得てそよぐ花きぶし
という句が詠まれています。ちなみに季語は「春」です。
【参考】五倍子とは、ウルシ科のヌルデの若葉などにアブラムシが寄生して出来る虫こぶの事でして、これがタンニンを多く含み、染料とされました。ヌルデは万葉集では「かづのき」として登場しますが、「きぶし」は詠まれておりません。
観賞用として庭園に植えられます。「まめふじ」とか「まめぶし」とも呼ばれ、私の大好きな花のひとつです。
水仙(すいせん)
(日本水仙) ヒガンバナ科
水仙は古くから栽培されていることから日本原産と思われていますが、遠く地中海沿岸原産の花で、日本には平安末期に渡米した植物と考えられています。高さが、約40cm、5〜8個の花をつけ、花被片は白色、副花冠は黄色でカップ状、地下に鱗形(りんけい)を形成する球根性多年草で、性状がよく似ているヒガンバ科に属することも納得できます。
全国各地で水仙の野生化した群落が、水仙郷として観光地になっています。静岡県伊豆半島の爪木崎、福井県の越前海岸、兵庫県の淡路島が有名です。日本水仙は、日本で野生化したものです。切り花としても古くから愛される水仙は、年末から早春の花の少ない季節にかわいい花を咲かせてくれます。
雪中にも凛(りん)として咲く花の意味から雪中花の別名もあり、白を銀、黄色を金に見立てて、金盞(せん)銀台とも形容されています。
杉(椙)(すぎ)
常緑高木 スギ科
我が国特産の樹木で各地に広く自生しており、吉野・秋田・北山杉として産地名が代名詞になっているものもあります。また、屋久杉のように樹齢3,000年を超し、高さ65m、直径6.5mに達する巨木の代表でもあります。
枕草子の杉の御社、すなわち奈良の三輪山の大神神社に代表されますように各地の神社の境内や周辺に大木が多く見られます。近くでは伊勢神宮・野登寺の巨木が有名です。椙は国字で、万葉集にも数多く詠まれ、王朝時代の古今和歌集には
わがいほはみわの山もとこひしくは とびらひきませすぎたてるかど
また、貫之集には
いにしへの事ならずして三輪の山 見ゆるしるしは杉にぞありける
と、人々の暮らしに古来より関係の深さを知ることができます。同時に用途の広い用材としての活用はもとより、樹皮は屋根材に、葉は線香や抹香にと重用されてきました。また、花は「杉鉄砲」として懐かしい思い出があります。 でもこの花は、花粉症の元凶とされ、4月ごろの開花時期には大きなニュースとなるところです。果たして今年はいかがなものでしょうか。ちなみに杉の花は「春」の季語とされます。
自然界では、この杉の山は植物の宝庫が多く、私の調査でも熊谷草・海老根(蝦)等の蘭科植物がけっこう確認されています。花粉症に強い方は、ぜひ春の到来を目と肌で楽しまれたらいかがでしょう。(写真は関地内の手入れが行き届いた杉の美林)
薺(なずな) アブラナ科 年越草
ご存じの春の七草の一つとして、正月の七草粥に入れられます。
日本での七草粥の起源は古く、室町時代とされていますが、中国ではその以前より正月七日に若菜を摘み、薬食(やくじき)として食する風習があり、
香芹甘薺(こんきんかんさい)採り来って新なり
又見る昇平延喜(しょうへいえんぎ)の春
暁に向かって千門七種(せんもんしらしゅ)を歌い
麋粥(びしゅく)に調和して嘉辰(かしん)を慶す
と詠まれています。また、万葉集には
明日よりは 春菜摘まむと 標(し)めし野に
昨日も杏(きょう)も 雪は降りつつ
山部 赤人
と、春菜として、総称的に詠まれており、枕草子では、「わかな」「なづな」の表現があります。夏に枯れることから、「夏なき菜」がなまったとか、愛ずる菜という意味の撫菜(なでな)がナズナになったという説、また朝鮮のナジからナジの菜とされ、それがナズナになったなどと、諸説があります。
ペンペン草・三見線草とも称され、実の形から三味線のバチに例えた別名もあります。
俳句では、新年の季語とされ、
一とせに一度つまるるなずなかな 芭蕉 とあります。
道端や畑のあぜ道などに生え、この季節、白い小さな直径3ミリ程度の四弁花を総状に付けます。雑草とされますが、古来より人々と深い関係をもつ植物として、ぜひ一度見直してみたものですね。
なお、薺のエキスは止血作用や解熱にもよく、平凡な雑草なのに効能は驚くほど多いとされています。
福寿草(ふくじゅそう) キンポウゲ科 多年草
近畿・東海地方を中心とする日本特有の温暖な気候は、古来より人々の生活に深く大きく関わり、現代に至っています。
8世紀の「古事記・日本書紀・風土記」に記される時代は、神話・狩猟・農耕に代表されますが、その中にも100種近い植物名が記載されており、更に「万葉集」にあっては4,500首もの中になんと1,700首に160種もの植物が詠まれています。
王朝文学の代表ともされる「源氏物語・枕草子」にもそれぞれ、100種以上の植物名がみられ、今更ながら人々の自然への関心の深さに驚かされます。
早春に始まり、晩秋の自然の様まで、まさに「花の色はうつりにけりな」ですね。
王朝の人々の自然の観察感は繊細にして優美、理知的なものが感じられます。掛詞などはその一例でもあり、動植物の地名を歌のなかに詠み込んでおり、「歌合わせ」の「花合わせ」では、歌人が花や草木など植物に対する自然観察感を如何に深めるかが試されたようです。
このことは「花鳥風月」を愛でた中国の漢詩の影響ともされますが、自然との共生が感じられるものです。
わたしたちの周辺環境も当時とはかなり変化しており、自然との共生が大きく叫ばれます現代こそ、自然の大切さを味わいたいものです。おかげさまで本欄も10余りの継続となり、皆様に多少とも自然へのお誘いができたものと思っています。
さて早春の題材ですが、小さな春をお知らせします。
福寿草は林地のやや明るい斜面が生息環境のようです。よく正月の盆栽に使われますが、自然では今からが開花の時期となります。
艶やかな花で、園芸種も多く、江戸時代には多種の選別がなされ色・形と楽しめますが、栽培にはひと工夫を必要とします。ひげ根が長く発達しますので、大きな鉢か地植えをお勧めします。
別名 元日草 俳句の季語は新年とされます。
ヤモリ
最近のペットブームは爬虫類にまで及び、南方系のヘビからトカゲ類にいたる実にさまざまな動物の飼育が一般化しています。
どうも海外の種に興味が注がれる傾向が強い現状ですが、日本にも希少とされる種が見られ、その代表であり最も人とうまく共生しているのが本種です。
守宮やもりまた屋守やもりとも称される和名のように家に住む動物です。夜行性のため、人目にふれることは非常に少なく、体形から受ける印象が悪いらしく、嫌われたり、恐れられたりすることが多いようです。無毒ですが昆虫類を捕食する動作は獰猛どうもうかつ敏速で、その様子から中国では壁虎へきことされます。
大和やまと本草ほんぞうに、龍類、かべにをる虫也と紹介されています。
このヤモリの仲間は世界に700から800種もが生息すると言われており、砂漠から熱帯雨林、そして温帯地方と広い生息域をもっているそうです。中間には有毒のヤモリも多種確認されています。
意外と知られていませんが、キ〜ッという鳴き声を発します。
面白いのは地方によっていろんな呼び名があり、壁をチョロチョロと動きまわることから、カベチョロとされるところもあるようです。
体長10〜14センチ程度。体色は灰褐色はいかっしょくで黒っぽい斑紋はんもんがあります。
指は5本で鋭い爪があります。ただし第1指には爪がありません。
よくヤモリとイモリを混同するそうですが、ヤモリは家の中、イモリは水の中というふうに覚えられればよろしいのではないでしょうか。
ちなみに、両生類で色は黒、お腹が赤く、これも地方によっていろんな呼び名があるようです。
面白いのは、「赤腹デンデン」などです。
また、当地には形がヤモリに類似するカスミサンショウウオやトカゲなど、多種の動物が生息しています。
この違いと場所をゆっくり観察してみてください。
仏泥鰌(ホトケドジョウ) コイ目 ドジョウ科
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春の訪れとともに、水ぬるむ季節となり、小川の生物に活気が感じられます。このホトケドジョウは絶滅危惧種として新聞等に取上げられ、河川環境の保全策に大きな反響を呼んでいます。顔が可愛く仏さまのように見えることから、この名がつけられたと考えられております。
市内の鈴鹿川や安楽川水系には本種のほか、ドジョウ・シマドジョウが生息し、自然の豊富さが確認されていますが、いつまでもこの素晴らしい環境を守ることの大切さを痛感するものです。
ドジョウは古来より親しまれてきた身近な淡水魚のひとつで、古くは室町時代の文献に「どじょう」「土長」とあり、これから「どじょう」となったようです。他にも「どぜう」などともされますが、正確な語源は不明です。
そこで、どじょうと言えば・・・柳川鍋、また安来節・・・を連想することから、これらについて少しお話をいたします。
●柳川鍋 江戸時代の末期より、庶民の食として親しまれ、九州福岡の柳川市がその発祥地と考えがちですが、実は売り出した店の屋号からとも、柳川焼きのなべを使ったことからとも言われ、その語源・発祥も定かではありません。
俳句に 〜灯を入れて葭戸透くなり泥鰌鍋〜
と詠まれるように、夏を代表する珍味の一つです。●安来節 鳥取県安来市周辺の産出する出雲鋼の砂鉄を集める作業を模したものが原型とされる踊りで、土壌をすくって選別するさまに、どうも「ドジョウ」をつかまえる仕草を所作として取り入れ、楽しく表現したものとされるようです。
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